ロゴスの使いーことばのふしぎ発見ー

人とことばは切り離すことはできない関係にあります。筆者の関心のある言語学(社会言語学・談話研究・語用論)の知見から、時には言語教育や海外事情など、言語と社会について書いていこうと思います。何も難しいことではありません、何気無く使っていることばを、ちょっと立ち止まって考えて見ませんか。

History(歴史)

24時間テレビ

今年もまた24時間テレビが放送された。毎年、筆者は色々な思いを抱えながら適当に見る。もしも読者諸君にも、そうした複雑な思いをしているかもしれない。耳が聞こえない、五体満足ではないなど、様々な障害を抱えている人がテレビに出る。そうしたことで、病気や障害への理解が広まることは大変良いことだと思う。その反面、お涙頂戴とは言わないが、「かわいそう」と言わんばかりの演出に少々違和感を覚える。ここで、その賛否を議論したいわけではない。障害者であろうと、健常者であれ、また身体的には満足でも精神的な病を抱えている人は多くいるだろう。今回の番組を見て、一つ筆者も何か伝えたくなった。今日はhistoryについて考えて見たい。

 

History

Historyは中学校で習う基本的な英単語の一つである。意味はもちろん「歴史」。もしも読者の中にフランス語学習経験がある方は、historeという単語(発音は「イストワール」)をご存知だろう。これは「歴史」と「物語」という二つの意味を持っている。ところが、英語に入る際に、これらがhistoryとstoryという別々の単語として使用されるようになったのである。さて、社会言語学の観点から考えると、この単語は男女差別を表しているという。お気づきになるだろうか?his storyであって、her storyではない。一見くだらないように思われるが、わりとこうした性に関わるものは現在、ジェンダーフリー化に向かっている。例えば、有名な例で言えば、chair-manはchair-personと置き換えられることが一般となった。大学受験などの長文でmanが出てくると、ついつい男と訳してしまうが、往々にして「人」という訳が当てはまることがある。ところが、逆のwomanは女性という意味しか持っていないどころか、よく見ると、wo + manという形態であることがわかる。筆者は歴史的な背景はおろか、歴史言語学など守備範囲外なのでこれは想像だが、『旧約聖書』では、イブはアダムの肋からできたと言われていたように記憶している。つまり、男から生まれてたという逸話の名残なのかと推測している。もし専門的にご存知の方がいればご教示願いたい。しかし、his storyというのは全くの見当違いで、なぜならもとはフランス語のhistoireであったことがそれを証明している。ちなみにフランス語でhisに当たるのはson [sa]になる。前者は男性名詞につく場合で、[ ]内は女性名詞につくものである。だが、今日は強引にもhis storyという立場から、人生について考えたい。

 

Every one has his own "history".

テレビに出ている人だけが、輝いている、あるいはとりわけ挫折や病気をしたり、克服していると思うことはないだろうか。今日見た24時間テレビにはダーツの旅的など私たちと変わらない(現に有名人と私たちは人間という点で等しいが)一般人が自分たちの生い立ちなどを語っている場面が印象的であった。そう、私たちだって、私たちのhistoryがあるのだ。それは決して誇れるものでも、感動的なものではないかもしれない。それでも今、ここに至るまでの軌跡は何にも変えることのできないhistory、すなわち「自分の物語」であることを忘れてはならない。私的であるが、筆者は特に派手な生活をしているわけでもなく、友人と飲みに行くことも少なく、連れがいるわけでもない。無論、五体満足に生まれ、これまで健康に生活できたことは幸せである。どういうわけか、筆者の友人には美男、美女が多く、彼らの楽しそうな話を聞いていると、たびたび羨ましいと思う。たまにはパーっと遊んだり、セックスだってしたい。はて、筆者のhistoryとは何だろう。おそらく語るに事足りない、薄い人生であろう。自慢することなど何にもない。失うものもない。親より1日でも長く生きれば、とりあえず良いだろうぐらいにしか思っていない。筆者は双子座の生まれで、言葉を操るのがうまい星だと高校の先生に言われたことがあった。確かに、これまで下手の横好きで英語とフランス語を細々と学び、アルバイトで稼いがお金で一人で、時に友人と海外旅行に出かけた(現在も親のスネをかじりつくして、旅行に行く)。特に、友人と海外で語らうことほど大切なものはない。おかげで、何を見たか、写真を見返してもよく覚えていないが、不思議と誰とどんな話をしてたかは鮮明に覚えている。想像できるだろうか。地元の人で賑わう店内に、ワインを片手に食事し、語らう瞬間、「あー、なんて人生は素晴らしいんだ!」としみじみと感じる。話したことを再現しようとしても陳腐になってしまうが、筆者の心の中にしっかりと刻み込まれている。これが筆者のhistoryなのだろう。何も特別なことではない。さて、読者諸君にはどのようなhistoryがあるでしょうか。

 

果てしない物語

実は「果て」はあるのだが、その時がいつかはわからないので、当面の間は「果て」だということにしておこう。生きていればいろんなことがあるのは世の定め。時に、喜び、時に悲しみ、嫉妬だってするだろう。「あーなんで、自分はダメなんだ」そうして自分自身を傷つけしまうこともあるかもしれない。でもそんな時は、思い出して欲しい。自分には「自分の物語」があるということを。物語は歴史であったことはおさらいだ。何処かの国は例外であるが、基本的に歴史を変えることは不可能だ。だが、これからの人生はいくらでも可能性がある。なんせ、自分の物語の書き手は間違いなくあなたであるから。その物語を紡ぐのはいつだってあなたのペンなのである。時にはがむしゃらに書きなぐり、疲れたらしばし筆を置こう。でも、決してそのペンを手放してはならない。筆者もまた自分自身にそう言い聞かせたい。まだまだ、物語は始まったばかりなのだ。ところで、9月1日は18歳以下の自殺率が高いと聞く。もしこんな拙論を見てくださっている小中高生の方がいれば、ぜひこのことを心にとめてほしい。世界はあなたのためにあるのだ。

 

おわりに

筆者自身、若く、どうしたらいいのかわからないことがたくさんある。非常勤では働いているものの、学籍がついており、大学院に進学し学びを続けている。好きでやっていたって、うまくいかないことの方が多い。ひどい時は、なんでこんなことしているんだろう?と思う時だってある。周りは働いて、早い人は結婚だってしている。自分で描けると言っても、想像力もまだまだ乏しい。これからどうなるかはわからない。それでも、きっと今日よりも明日の方がより素晴らしいと思ってこれからも生きていきたい。しかし、たまには、振り返ってみることも大切だ。そこには自分だけの物語が広がっているに違いない。

 

英語史に関連する書籍

寺澤 盾『英語の歴史』中央公論新社、2008年

堀田隆一『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』研究社、2016年

堀田隆一『英語史で解きほぐす英語の誤解』中央大学出版、2011年

いづれも読みやすい。

英語の歴史―過去から未来への物語 (中公新書)

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英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史

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英語史で解きほぐす英語の誤解―納得して英語を学ぶために (125ライブラリー)

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